脳の能力
先日、NHKのある番組を見た。テーマは「介護」についてであったが、大きなテーマは「脳の持つ能力」についてであった。脳の血管に何らかの異常が起こりある部分の脳細胞が死滅する。身体には脳が損傷を受けた部位により後遺症が残る。番組では『左半身麻痺』の男性が登場していた。
緊急入院後、6ヶ月のリハビリをして何とか歩けるようになった。その時点で医者から「もうこれ以上改善の余地はない」と言われ退院した。しかし、一人では何も出来ないのである。奥さんはゆっくりとお風呂に入ることも出来ず、新聞もろくに読めない日が続き「介護」に疲れきっていた。2人ともストレスが溜まり、イライラし、どうしようもないほど険悪な雰囲気となっていった。
そこで奥さんは考えた。電話がかかってきても奥さんは出ないでご主人に出てもらう。衣服の着替えも首や袖口にリボンをつけ、着る人がわかりやすくするなどなど・・・。甘やかさないで自分で出来ることは時間がかかってもじっと見守る。できた時は思い切りほめてあげる。書くとたったこれだけのことと思うかもしれないが、根気強く、毎日毎日実践しなければならない。これはなかなか大変である。出来ないと思って諦めてしまえばそれまでである。『絶対、諦めない!』という強い気持ちと意思を持って、毎日続けていればできるようになるのである。
今までは「一度麻痺した手足(身体)はリハビリをしても元のように動くようにならない」と思われてきた。当時のリハビリに対する考え方は「残存機能の強化に重点を置く」という考え方が主流であった。私自身もそう思っていた。
進行性の病になって13年。遅々たる歩みだが確実に、1年単位で進んでいるのがわかる。それを示すようにこの1~2年、今まで出ていなかった「オン時のすくみ」が出るようになった。バランス感覚も極端に悪くなった、その影響だろうよく転ぶようになった。進行したのだと思うと心が揺れたが、今年の目標『何事にも動じることのない自己を確立する』『平常心を保つ』としていたので、人には「順調に進行しているようです。」と笑いながら言っていた。
3月末、ある難病患者の会に出席した。最初に自己紹介や近況報告をしていく。私はこう言った。「最近、よくすくむようになってきた。そんな時無理して歩いて転び、骨折するといけないので、4つんばいになって移動する。ついでに両手、両膝にモップ様の物をつけていれば、拭き掃除の手間が省ける。」と。第1部の会が終わって部屋に帰ると主催者のOさんが私に言った。「這ったりしてたらダメよ。強い気持ちと意思を持って自分は絶対寝たきりにならないぞ!立って歩くんだ!と思わなくては・・・。」「這っていたら脳がそれに慣れて歩けなくなり、やがて寝たきりになってしまうよ。」と言った。その後、自分で考えたという足腰の運動の実技指導をしてくれました。」「毎日、実践してごらん。すくんでも歩けるようになるから。自分も何年か前に、すくむようになった。どうやれば克服できるか色々考えてやってみた」と。
Oさんの話を聞いていた私は突然悟った。「これって、毎日繰り返すことでその動きを脳に覚えさせるのですね。」「そう、そう、そうなのよ!」とOさんは言った。先日、NHKで放送された番組「介護ーリハビリ」と、Oさんが私に伝えて下さった事は同じなのであった。
言葉が思うように出なかった男性は、かかってきた電話ではっきりと話をしていた。自分で着ることが出来なかった洋服も、比較的スムーズに着ている、歩行もしっかりしてきていた。男性の言語を司る脳細胞は壊れたままである。話をしている時に活発に働いていたのは、顔の表情を司る神経であった。”目からウロコガ落ちる”とはこのようなことをいうのだろう。本来、働かなければならない言語野が働かなくなれば、他の神経回路がその部分の働きを受け持ってくれるのである。脳は大きな代償機能という能力を持っているのである。しかし、その機能を働かせるには、諦めないで動かし続けることが必須なのである。
テレビに出ていた男性の奥さんが「これ以上改善することは望めない」と言われて、諦めていたなら多分今頃は寝たきりになっていたかもしれない。脳はまだ底知れぬ能力を秘めているような気がする。
今まで、常識と思われていたことももう一度、根底から解体して見直し、考え直してみる、いわゆる「ブレイク・スルー思考」に切り替えてみてはどうだろうか。介護に限らずあらゆる面において・・・。何か新しい事実や発見があるかもしれない。


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